有明の月

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イヤイヤの滑車

 カートを押している人がいる。4つの車輪が付いていて、ダンボールとか載せて運ぶ平たいカート。その車輪のうち左上の車輪だけが、噛みあわせが悪いのか、まるでイヤイヤするみたいに左右にブルブルと振れながら前に進んでいる。カートの持ち主はそんなことお構いなしにカートを押す。左上の車輪はイヤイヤをする。他3つの車輪は規則正しく真っ直ぐ転がっているのに。そいつだけがイヤイヤしながら前に進む。一応進む。決して転がらないということはない。持ち主に押されてイヤイヤ転がる。
 カートが曲がり角に差し掛かった。持ち主は進行方向へ向かってカートの鼻先を向ける。するとイヤイヤしていた車輪がイヤイヤをやめて綺麗に曲がってみせた。そしてまた真っ直ぐ進もうとすると、イヤイヤを始めた。
 僕は泣きたくなった。

1 森達也『FAKE』感想

古池や、蛙飛び込む水の音

 この句の日本語的な意味は、「古い池に蛙が飛び込んだ音」ということだが、僕達は、この句に対してそれ以上の何かを認識しているはずだ。それは池に何かが落下した時のポチャンという「あの感じ」かもしれない。一瞬で蛙が視界から飛び去り消えてしまう「あの感じ」かもしれない。いわば、池に蛙が飛び込むという「こと」を僕達はこの句に見出す。「池に蛙が飛び込んだ」という事実、即ち「もの」的な捉え方を句に対して適用する者は稀のはずだ。

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